文・写真|猪狩渉
突然の転機でした。2025-26シーズンの開幕を1週間後に控えた僕に、モンゴルリーグの昨季チャンピオン「ザック・ブロンコス(XAC BRONCOS)」から、なんと獲得オファーが届いたのです。現地の開幕まではあと5日。「3日後にはモンゴルに来てほしい」と言われ、自分の気持ちに素直に従いました。もちろん引越しの時間などはなく、カバンにバッシュを詰め込んでモンゴルへ飛びました。

ガベージタイム専門だった僕が、ココまで来るまで
僕は福島県いわき市の「赤井」という小さな街に生まれ、高校は秋田の能代工業に進学しました。中学までは福島県でNo.1でしたが、高校に入るといきなり出鼻を挫かれる事に。部員総数「50名」を超える名門でしたので、モップがけ、球拾い、洗濯、掃除、雑用など、Bチームからのスタートでした。この時の悔しさが今に繋がっているのかもしれません。
地元の福島ファイヤーボンズ(B2)で20歳の時にプロデビューしました。以来、これまでB2でしかプレーしたことが無く、常に3番手のポイントガードでした。プレータイムはほぼ無く、ほとんどがガベージタイム。DNPやベンチ登録外もしょっちゅう。時には残り「1秒」だけの出場なんてこともありました。
27歳の頃には仙台89ERS(B1)で練習生も経験し、お金も、地位も、何も無くなりました。青森ワッツ(B2)で過ごした昨季もほぼプレータイムがなく、人生で初めて「引退」を考えたのがこのオフシーズンでした。
「選手としてはもう限界なのだろうか」
「コーチになった方が、将来は安定するのかな」
でも、心の奥底では「まだプレーしたい」という情熱が残っていたし、バスケが好きな気持ち、上手くなりたい気持ちが残っていました。そんなことを考え始めた時期に、元チームメートで現ライジングゼファー福岡のコーチ・神原さんに言われた言葉で、気持ちが吹っ切れました。
「お前は永遠のバスケ小僧だろ」
本気でNBAを目指しアメリカに渡り、Gリーグのトライアウトを受けた選手が日本に何人いるんだ?と。だったらどんなにカッコ悪くても、どんなにダサくても、最後まで「バスケ小僧」として足掻き続けたい。それが自分らしい生き方なんだと思います。
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モンゴルリーグの実情
日本のファンの皆さんに、モンゴルバスケへの馴染みはあまり無いと思います。
トップリーグは全10チーム。4月のプレーオフに進めるのは上位8チームで、下位2チームは2部リーグの上位チームと入れ替え戦へ進みます。ほぼ、Bリーグのシステムと似たような感じです。リーグレベルは、B1中位からB2レベルが混在してるといったところでしょうか。Bリーグと同じようにチームの資金力に差があり、特に上位4チームのレベル・環境共に、B1チームと遜色ないと感じています
試合スケジュールは、毎週末がBack to back(2日間連続)といった感じではなく、どちらかと言えば「プロ野球」に近いです。中3〜4日の時もあれば、Back to backの時もあるし、逆に1週間まったく試合がない時もあります。だから、コンディション調整は難しいです。
ただ、モンゴルはとても広大なので「遠征は大変だろう」と思っていたのですが、首都・ウランバートル内で90%の試合が行われます。例えるなら、東京都内に全チームがあり全試合が行われる感覚でしょうか。これもまたBリーグとの大きな違いだと思います。

アルバルク東京と戦った日
僕が加入したブロンコスのヘッドコーチは元ギリシャ代表で、戦術はヨーロッパスタイル。約20個以上あるセットプレーを頭に叩き込み、チーム練習はたった1日の状態で開幕戦を迎えました。これまでプロではチャンスに恵まれて来ませんでしたが、今季からモンゴルのチャンピオンチームもEASLに参加できることになりました。そして10月、あのアルバルク東京に勝利することができました。
これまでガベージタイム専門だった自分が「10分」以上プレーし、その時間帯の±は+2。ポイントガードとして、日本のトップチーム相手にもゲームコントロールできる事を証明できたし、自信につながりました。EASLで日本のトップチームと戦い、自分の価値を証明し、そして勝つ。これが、移籍した一番の理由でもありました。
同時に、プロは数字にこだわらないといけません。アシストやスティールにはスタッツがつきましたが、得点は0。これまでは「プレータイムを得る事」が目標でしたが、数字として結果を残すことの難しさや大変さを感じる試合でもありました。
突然のモンゴル移籍から3ヵ月、いま一番の挑戦
実は去年12月にブロンコスからトレードされ、現在はモンゴリアンズ(Mongolians)というチームで戦っています。(トレードについての詳しい話は、また今度のコラムで話しますね)
チャンピオンチームの「控えポイントガード」から、今度は最下位チームの「先発ポイントガード」へ。
新しいチームでは個人としての役割が増え、勝利への責任がより大きくなりました。合流当時は1勝12敗のダントツビリでしたが、現在は5勝15敗(1月23日時点)。僕が加入以降は4勝3敗と勝ち越しています。今度は自分が良いスタッツを残しても、チームが勝たなきゃ評価されません。
だからこそ、スタッツも残してチームも勝利に導く。そして、最下位からチームをプレーオフに連れて行くこと。それが今、一番大きな目標です。

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