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【連載|猪狩渉のモンゴル便り】人生初のオールスターと、恩師の死

文・写真|猪狩渉

1月中旬。
モンゴルリーグのオールスターが開催されました。

そして僕はその舞台に、プロキャリアで初めて選出されました。それも3Pシュートコンテストです。ポジションがPGなので、選ばれるならスキルチャレンジかなぁと思っていたんですが、まさか3Pシュートコンテストとは。笑

改めて今季のスタッツを確認してみると、3Pシュート成功率は40%。移籍後はなんと50%まで上昇していました。もちろん、スタッツ向上はプレータイム増加に伴う部分もありますが、シーズンオフに明確に意識して取り組んできた賜物だと思います。それも、ただの3Pシュートではなく『ロングスリー』です。

普段の自主練習では、通常のラインからさらに2m後ろから打つ練習をしています。コートにもう一本ラインを引いてもらい、そこを基準に。これは前所属の青森ワッツ時代から続けてきた事です。

モンゴルでのシューティングの様子

この練習を始めたきっかけは、三遠ネオフェニックス・佐々木隆成選手との会話でした。
同い年の彼とオフシーズンに食事をする機会があり、試合中に意識していることや、練習で大事にしている事など、とにかく聞きたいことを聞きまくりました。

なぜなら彼のプレースタイルは、僕が目指している「理想」に最も近いものだったからです。

自分の武器は「スピード」や「縦の突破力」で、佐々木選手も同じ武器を持っています。でも、彼が真っ先に狙っているのは『プルアップスリー』だったんです。ドリブルから放つ3Pシュートの事で、キャッチ&シュートとは比べものにならないほど難度が高い。それでも佐々木選手は、縦の突破を最大化するためにもプルアップスリーは必須だと言います。

そして衝撃だったのは、シュートを打つ位置。

彼は練習中から、3ポイントラインの2メートル後ろから打っていると言いました。自分にとってそのレンジは、ステフィン・カリーのようなNBA選手が打つ「特別な場所」だと思っていましたが、日本のトップ選手はそこを「日常」にしていたのです。

シュートエリアが広がれば広がるほど、リングまでの距離は長くなり、加速できる距離も伸びます。だからこそオフシーズンから、自分のスピードを最大限に活かすために、ロングスリーを本気で磨き始めました。その成果が数字として表れていることは素直に嬉しいですし、自分のアプローチは間違っていなかったと証明できた気がします。

オールスターの話に戻ると、コンテストの結果は16点でした。やはり試合で打つシュートとコンテストは全然違いました。でも、人生初のオールスターは、間違いなくキャリアの中で特別な時間になりました。

楽しいこともあれば、悲しいこともありました。僕にモンゴルリーグでプレーするチャンスを与えてくれた、ブロンコスのタナシスHCが亡くなりました。その前日もコート上で指揮を取り、1点差のゲームを勝ちきってチームをリーグ首位に戻したばかりでした。

彼は元ギリシャ代表のコーチで、NBAでMVPを獲得したヤニス・アデトクンボを指導したこともあります。そんな素晴らしい指導者のもとでプレーできたことは自分の誇りですし、亡くなった事がいまでも信じられません。トレードでチームを離れた後も気にかけてくれていて、直近の試合も会場に来てくれていました。

「プレーオフまで3試合あるんだから、諦めるな。チャンスはまだあるぞ。」

それが、僕とコーチが交わした最後の言葉になるとは思ってもいませんでした。

彼から学んだのは、PGとしてのゲームコントロールです。それまでガベージタイムでの出場が多かった自分に10〜15分のプレータイムを与えてくれ、バックアップPGとしてどう流れを作り、流れを変えるのか。今、誰が乗っているのか、どのセットをコールすべきか。プッシュするのか、スローダウンするのか。点差、時間、流れ、それらを踏まえてコントロールする感覚。これらはコートの上でしか学べないことでした。

その機会を与えてくれたことは、僕のキャリアにとって間違いなく人生を変える転機になりました。

改めて伝えたいです。
コーチタナシス、本当にありがとう。

©️EASL

プレーオフに進出するには、残り3試合で全勝が条件です。シーズン終盤まで消化試合にならず、常にプレッシャーと緊張感の中でプレーできることを幸せに思います。そのプレッシャーを楽しみながら、最後まで戦い抜きたいと思います。

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