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韓国ソウル&スウォン取材記(前編)「ヒョンジュン選手の決意を聞くために」

Text & Photo/Yoko Konagayoshi

現場取材に難航はつきものだ。ましてや、細かいニュアンスがうまく伝わらない海外との交渉にはミスが起きやすい。今回のヒョンジュン選手を追ってのソウル取材は、一度はミスが起こりながらも、強力な協力者たちのおかげで無事に取材を終えただけでなく、たくさんのお土産を得て帰国に至った――という取材の裏側を恥ずかしながら紹介したい。結論。ヒョンジュン選手の決意、しかと聞いてきました!

6月6日、ソウルでの会見より。
顔つきがNBA挑戦モードに変わっていた

「韓国で取材できると思うよ。ただし、スケジュールがタイトなんだ。長崎のファン感が終わったら翌日の6月4日に帰国して、6日にはヒョンジュンの記者会見と、NBAファイナルをケビン・ガーネットとともに観戦するイベントに出るんだ。8日からは韓国代表の強化合宿に合流する予定。このスケジュールだと、個別の取材時間を作るのは難しいかもしれないけれど、6日のNBAイベントと会見取材はできると思う。あなたたちの熱意ある取材にいつも感謝しています」

イ・ヒョンジュン選手(以下ヒョンジュン選手)の所属エージェント「EPIK SPORTS」のキム・ビョンウク代表(通称デニス)からそう言われたのは、Bリーグファイナル初日の5月23日、横浜アリーナで会ったときのこと。

個人的な話になるが、私自身、アジア全般のバスケに興味を持っており、とくに日本と同等の体格ながらシュートの巧さを持つ韓国男子バスケについては、かなりの取材を積んできた。そうした関係から、高校時代から気にかけていたヒョンジュン選手に対しては、長崎ヴェルカでもその成長を追い続けてきた。

また今季は、韓国でも長崎ヴェルカの試合が中継されていたこともあり、試合解説を務めた韓国の友人記者にBリーグの資料提供をしてきたことから、長崎ヴェルカの試合はネット観戦を含めて、全試合目撃してきた。

長崎ヴェルカの優勝の軌跡を追えたことは、組織作りにおいても考えさせられることばかりで、充実した取材経験になった。長崎ヴェルカの皆さん、日本一おめでとうございます!

ということで、次なるターゲットに向けて取材すべく、韓国に飛ぶことにした。

ヒョンジュン選手はかねてからNBA挑戦を公言しており、この夏は7月のNBAサマーリーグに出場するのか、あるいは同時期開催のワールドカップ予選Window3に出るのか、それとも両方に出場するのか、新たな目標の決意を韓国の地で取材したいと考え、エージェントにその旨を打診していたのだ。

また、9月には、韓国男子代表にとっては、金メダルを獲得すれば「兵役免除」となるアジア競技大会もある。そこに向けての周辺取材も韓国に行くならばしたいと考え、準備を進めていた。

韓国の希望、エースとして活躍するイ・ヒョンジュン

6月6日の記者会見に向けて渡韓する前に、6月3日には「超VELCAファン感謝祭」の取材があり、台風襲来が心配される中、今シーズン7回目の長崎へ(結果的に台風は逸れてくれた!)。ファン感が始まる前に、ヒョンジュン選手に個別インタビューをすることになっていた。

ここまで読んで、疑問に思う人もいることだろう。

「長崎でインタビューをしたのに、このあとわざわざ韓国に行くの?」と。実のところ、長崎での取材と、韓国での取材は、別物と考えていい。

この時期、長崎ヴェルカは優勝後ということで、嵐のようなイベントラッシュを迎えていた。チーム行事が続く中、インタビューの時間を確保することはものすごく難しい。そんな中で短時間ではあるが、個別取材の時間をもらえたのは本当にありがたいことだった。そして、この貴重な取材機会はヴェルカでの成長について聞きたかったので、今後の話を「具体的」に聞くには、到底時間が足りないというわけだ。

何よりも、今後の話はヒョンジュン選手の母国にて、韓国語での決意を取材に収めたかった。それが一番、素直な心情が伝わるからだ。

冒頭に出てきたデニス代表の言う「あなたたちの熱意ある取材」――の「あなたたち」とは、まさに今、ヒョンジュン選手の密着ドキュメントを鋭意作成中の「BTALKS」の代表を務める市来健氏のことで、彼もまた、ドキュメントのクライマックス部分を撮影するために、韓国ロケを希望していた。

ただ、6月に入ったこの時点でも、記者会見の申請はしたものの、それ以外のことがどれくらい取材できるのかは不明で、現地に行ってみなければ分からないことだらけだった。たとえば、会見後に囲み取材はあるのか、NBAイベントでどれだけヒョンジュン選手や、NBAレジェンドのケビン・ガーネットからコメントが聞けるのかなどの詳細は明らかにされていない。

そこで市来氏と私は、韓国で交渉事や時間配分のミスがないようにと、共同戦線を張ることにした。日本語が堪能な韓国の友人――先ほど紹介した長崎ヴェルカの試合解説を担当したパク・サンヒョク記者に取材のアテンドをお願いしたのである。

本当は、せっかく韓国まで出向くのだから、たくさん取材して帰りたいと思う気持ちもある。もし、韓国滞在中の別日にワークアウトなどに立ち会えたら、練習の取材もできる。

そう考える一方で、私たち日本人記者は、ヒョンジュン選手が長崎でどれほどの激闘とイベントをこなしているかを目撃しているからこそ、帰国後たった3日しかない休暇にはしっかりと体を休めてほしい気持ちもあった。それゆえ現場では「出たとこ勝負」で乗り切り、記者会見では「次に進む決意を取材できればOK」の気持ちで、韓国に向かう準備を進めていた。

ファン感と選手取材のため、今年、7回目の長崎へ

そんな矢先、ファン感を目の前にして、「日本人記者は会見取材がNG」との連絡が入った。サンヒョク記者経由でその理由を確かめると「記者席が足りないから」という、思ってもみない理由が判明した。

「どれだけ大勢の記者が来るの?」と思ってサンヒョク記者に事情を聞くと、「おそらく、いつもの記者たち」との返事。ということは20名くらいか、もしくは「一社何人まで」というように限定されたのだろう。韓国では第一線で活躍する厳選された記者のみが取材できる環境、ということを思い出した。 

ここで、韓国プロバスケの取材環境や仕組みを紹介したい。

韓国では、男女のプロリーグ「KBL」「WKBL」に認められた記者が優先的に取材できる仕組みになっている。リーグから認可された記者には「シーズンパス」(記者証)が与えられ、試合ごとの申請は不要で、いつ、どこで、何のカードを取材しても可能となっている(リーグ中は各地方のインターン記者が取材するため取材人員が増えることもある)。そして、記者たちの仕事ぶりは非常にプロフェッショナルだ。

7月6日の決戦の地、高陽ソノアリーナ。
6番イジョンヒョンがチームの顔

韓国には「빨리 빨리」(パリパリ=早く早く)という文化がある。

何事もスピードや効率重視という考え方のことを指すが、それは記者たちも同様で、1分1秒を争うかのように、せっせと記事を書く。試合前に怪我人が出ればすぐにその情報を伝え、試合を見ながら記事を書き、試合後には会見を聞きながら、その言葉をパソコンで入力しているという凄まじさだ。

試合だけではない。契約、FA、移籍、引退、年俸、怪我、手術、復帰、電撃トレードなどの詳細は決まり次第、すぐに公開。高校や大学の情報、各種イベントなどに加え、KBLやWKBLの海外遠征にも必ず記者が帯同しては、素早く情報を伝えている(渡航費・滞在費の予算はKBLとWKBLの各クラブが持つ)。そのため、ポータルサイト「NAVER SPORTS」には、連日のように様々なジャンルの記事がアップされている。長編レポートやロングインタビューの記事は少ないが、速報性という意味では、日本の上をいくのが韓国の報道だ。

というわけで、話を戻すと、今回の記者会見は最初から席数が少ないため、専門媒体と新聞、テレビ局など、第一線で報道する記者が優先されるとのことだった。

市来氏はファン感翌日の6月4日に韓国に飛ぶことになっており、私は6月4日に長崎から福岡に移動し、一日だけ、U18アジアカップの東アジア地区予選(日韓戦)の取材をしてからソウルに移動する。

「ヒョンジュン選手の取材ができないのに韓国に行くのか?」――という自問自答が一瞬だけ頭の中を駆け巡ったが、答えはすぐに出た。

「現地に行けばきっと何かを得られる」

もし、会見取材ができないとしても、今回はどうしても行きたい場所があった。それは「いつも韓国に帰ったら練習しに行く心のふるさと」とヒョンジュン選手から聞いていた母校、水原(スウォン)市にある「三一(サミル)高校」(ヒョンジュン選手の在籍時は「三一商高」)だ。

ヒョンジュン選手のルーツを探るべく、三一高校の体育館に行くことは、この機会だからこそ行きたいところに急浮上し、この数日間で、私と市来氏のマストな取材候補地になっていた。これまた、NBAファイナルのパブリックビューイング終了後にサンヒョク記者が車を出してくれるというので、ありがたく案内してもらうことにした。

ヒョンジュン選手のパーソナルコーチのイドーACと盟友の馬場選手

ただし、渡韓するにあたっては、本来の目的である「記者会見NG」の件を早急に解決しなければならない。実は予定が立たないため、帰りのAIRチケットはこの時点では購入していなかった。

6月4日、ファン感の翌日、早くも梅雨入りした福岡にて、もう一度だけサンヒョク記者を通じて問い合わせをしてもらった。この日、長崎ヴェルカから、ヒョンジュン選手が「サンアントニオ・スパーズの一員としてNBAサマーリーグに出場」と発表されたこともあり、記者会見に出席したい気持ちは最高潮になっていた。

「席がないなら立っていても構わない」というお願いのもと再交渉してみると、数時間後にあっさりOKとの連絡が!

どうやら、記者席がないのはシアターで行われるNBAファイナルのパブリックビューイングの話だったようで、「会見だけならOK」という許可をいただいた。記者席が少ないのは当たり前だった。イベントに当選したファンが大挙するのだから、そちらが優先されるのは当然である。

この問題を複雑にしていたのは、パブリックビューイングの前に行う会見(記者のみ)の場所が、同じシアター内だったこと。まさか、イベント会社も「会見だけ出て、メインイベントのパブリックビューイングを見ずに帰る日本人などいるまい」と思ったのだろう。「パブリックビューイングに入れないならば、最初から来ない方が渡航費の無駄にならない」と思って、NGとの連絡をくれたのだろうと察する。

ただ、私たち日本人記者が必要なのは「記者会見」と強調したことで許可が出たのだから、やはり細かいニュアンスをきちんと伝えて交渉することは大切である。

ということで、私は福岡で、市来氏はすでに入っているソウルで、お互いにガッツポーズをしたのは言うまでもない。そして、たった1日だけだったが、アジアの高校生たち(U18代表)の取材を終え、5日の夕方前には無事にソウル入り。市来氏と韓国の知人を交えての食事を終え、この日は早めにホテルに戻った。

翌朝は朝7時に集合である。なんてったって、NBAファイナルは朝の9時半開始で、会見は8時半からという早朝スケジュール!ここ数日は移動、移動、また移動の日々で寝不足だったので、ヒョンジュン選手ではないが「イエカエル ネルジカン」(勝利インタビューでのヒョンジュン語録)は本当に大事なことだな、と実感しながら眠りにつくのだった。

(長くなったため後編に続く)

ソウル駅付近から望む南山とNソウルタワー

BTALKSでは、イ ヒョンジュン選手のシーズン終盤3ヶ月に密着し、過去最長の「54分」で描くドキュメンタリーを6月30日(火)20時に公開します。リターンは「エンドロールに名前を掲載できる権」「ナレーション収録見学権」等、盛りだくさん。ラストスパートのご支援、よろしくお願いします!

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